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大樹の下で

神話・古史・古伝・民間伝承に関わる、自由な空想を不定期に更新しています。

2018-11

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神話と葦(あし/よし)

葦(あし/よし)という稲(いね)科の植物があります。
学名 :Phragmites communis (Phragmites : ヨシ属/communis : 普通の)
神話を読んでいると、何気なく登場する植物だと言えます。
湿地に群生する植物で、古代から人が利用してきた、大変身近な植物でした。
初夏の葦原 From:角館町観光協会HP 角館紀行 冬祭りの準備
このイネ科”葦(あし)”という植物、
現在では分類がはっきりと区別されているのですが
古代の神話などで語られる”葦(あし)”には
似た風貌を持つカヤツリグサ科の植物も含まれます。
最古の紙の原料とされる”パピルス(Papyrus)”カヤツリグサ科です。
古代の船で”葦船(あしふね/あしぶね)”と呼ばれるモノの多くは
カヤツリグサ科の植物を材料にしていると言われます。

ただいま、アフリカ神話の紹介をしていますが、本日はちょっと中休み(苦笑)。
もちろん、”葦(あし)”アフリカの神話にも登場します。
南アフリカ最大の勢力を誇ったズールー族(ズルー族)の始祖神話では
”最初の人間は、男と女の一組で、葦(あし)、葦原(あしはら)の中から現れた”
と伝わります。
また、現在ジンバブエ及びザンビアのザンベジ河中流域に住む
トンガ(トーンガ、ツォンガ)族の始祖神話では
”一組の男と女が爆ぜた葦(あし)から突然現れ、この世にあることになった”
と伝わるといいます。

日本神話の場合も、この”葦(あし)”という植物、
切っても切れない縁があります。
日本神話において日本の国土の異称を
”葦原中国(あしはらのなかつくに)”あるいは、
”豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)”と言います。
また、天地開闢(創世)神話の1柱(ひとはしら)に”葦(あし)”の一文字を持つ
可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)<日本書紀表記>
という神様がおられます。
さらに、国産み(くにうみ)神話において
伊邪那岐(いざなき)伊邪那美(いざなみ)<古事記表記>が
一番最初にお産みになった神様が”水蛭子(ひるこ)”と呼ばれる
不具(体に欠陥/欠損がある)の子で、
この”水蛭子(ひるこ)”神は、
”葦船(あしふね/あしぶね)”に乗せられて流されてしまいます。
さらに私の個人的な解釈ではありますが
”八岐大蛇(やまたのおろち)”の体内から現れたとされる
”天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ、あめのむらくものつるぎ)”の異称、
”草薙剣(くさなぎのつるぎ・くさなぎのけん)”の元になった
日本武尊(やまとたけるのみこと)
駿河の国(現:焼津と伝わる)にて沼地の野原に火をかけられ草を払う場面、
この野原に生い茂る草は”葦(あし)”であったと思います。
「人間は考える葦である」と表したのは、
”ブレーズ・パスカル”(Blaise Pascal、1623/6/19 - 1662/8/19)
フランスの”早逝の天才”と言われ、
数学者、物理学者、哲学者、思想家、宗教家
とその活動は多岐にわたります。
私は現在40歳を過ぎましたが、パスカルはこの年齢まで生きていません。

「人間は考える葦である」と言う言葉はこれのみで流布していますが
前後に長い文章があります。

L'homme n'est qu'un roseau, le plus faible de la nature ; mais c'est un roseau pensant. Il ne faut pas que l'univers entier s'arme pour l'醇Pcraser : une vapeur, une goutte d'eau, suffit pour le tuer. Mais, quand l'univers l'醇Pcraserait, l'homme serait encore plus noble que ce qui le tue, puisqu'il sait qu'il meurt, et l'avantage que l'univers a sur lui ; l'univers n'en sait rien.
Toute notre dignit醇P consiste donc en la pens醇Pe. C'est de l醇A qu'il faut nous relever et non de l'espace et de la dur醇Pe que nous ne saurions remplir. Travaillons donc 醇A bien penser : voil醇A le principe de la morale. (B.347, L.200)

人間は一本の葦にすぎない。
自然の中でもっとも弱いものである。
だが、それは考える葦である。
これを押しつぶすには、全宇宙が武装する必要はない。
一吹きの蒸気、一滴の水だけで、殺すには十分である。
だが、たとえ宇宙が押しつぶそうと、
人間は彼を殺すものよりも尊いだろう。
なぜなら人間は自分が死ぬこと、
宇宙が自分よりもまさっていることを知っているからである。
宇宙は何も知らない。
だから、われわれの尊厳のすべては考えることにある。
われわれが立ち上がらねばならないのはまさにそこからであって、
われわれが満たすことのできない時間や空間からではない。
だから、よく考えるようにつとめようではないか。
そこに道徳の原理がある。 (B.347, L.200)
(戸口民也訳)

パスカルはここで”葦(あし)”と言う植物を
”最も弱いものの象徴”として使っています。
何故、”葦(あし)”という植物を選んだのでしょう?

この文章は”パンセ(仏:pens醇Pe あるいは Pens醇Pes)”
と呼ばれる彼の遺稿集に見られます。最近の研究によれば、
広範囲にわたるジャンルを含む手記の集合であるこの遺稿集は、
”護教書(ごきょうしょ)”執筆の為に綴られたものだ
と言うことがわかってきました。

”護教書(ごきょうしょ)”とは文字通り、
”教義を保護するための書”の事です。
パスカルが保護したかった教義とは、
キリスト教カソリック(カトリック)の一学派であった
ポール・ロワイヤル学派だったようです。
一般にジャンセニスム(Jansenisme)という思想に繋がる学派で
当時、カソリックから異端的とされていました。
事実、その後、異端とされて禁止されています。

話が大分ずれましたが(苦笑)
パスカル”葦(あし)”という植物を選んだ、
あるいは、発想した背景には、キリスト教があるのです。

新訳聖書/旧約聖書ともに”葦(あし)”はよく登場します。
聖書では、虐げられた弱者の象徴として、あるいは人そのものを指して
”葦(あし)”が使われていたようなのです。
パスカルが引用したとされる最も有力な一節が
”彼は傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない”
(旧約イザヤ書四二章『僕の歌』ーマタイ十二,二十)
だそうです。

他にも出エジプト記の”葦の海”や、
創世記の
”よく肥えた七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた”
列王記の
”主はイスラエルを打って水辺に揺れる葦のようにし、
その先祖にお与えになった地からイスラエルを引き抜き、
ユーフラテスのかなたに散らされる”

”今お前はエジプトというあの折れかけの葦の杖を頼みにしているが、
それはだれでも寄りかかる者の手を刺し貫くだけだ”

”また、ソロモン王は、エドムの地の葦の海の岸辺にある
エラテに近いエツヨン・ゲベルに船団を設けた”

等々、挙げ始めたらキリがないほど多くの場所で引用されています。

キリスト教はユダヤ教から発しています。
ユダヤ教発祥の地は古代オリエント地方です。
この地のエジプト神話メソポタミア神話にも”葦(あし)”は登場します。

エジプト神話において
最も有名な”葦(あし)”の登場するお話はオシリス神話でしょう。

権力の座にあったオシリスは弟のセトによって暗殺され
その遺体は石棺に入れられ流されてしまいます。
オシリスの妹(妻)であるイシスは棺を回収し、
”葦(あし)”の茂みに棺を隠すのですが
セトに見つかり遺体はバラバラにされてしまいます。
それでも諦めずイシスは体をつなぎ合わせて
オシリスの蘇生に成功します。
ですが、復活したオシリスは現世に戻る事なく、
そのまま冥界の王となります。
また、オシリス以前の冥界の王は、アヌビスなのですが
アヌビスオシリスセトの妹(妻)のネフティスの間に生れた不倫の子で
誕生の時にネフティスによって”葦(あし)”の茂みに隠されます。

古代エジプトにおいて”葦(あし)”は”かりそめの死”の象徴のようです。
”葦(あし)”の茂みに隠されるということは
古代エジプトの埋葬に関係しているのではないでしょうか。
古代エジプトにおける埋葬法は木棺に入れるパターンと
”葦(あし)”にくるむパターンがあったようです。

冥界の王アヌビス-オシリスの神話において
彼らが、いずれも”葦(あし)”の茂みに隠されるのは
当然の結果と言えますね。

メソポタミア神話における”葦(あし)”は、
古代の住居の材料としてしばしば登場します。
詳細は、Lyricaさんのブログ 「光のシェラザード」
記事:エヌマ・エリシュ2/記事:アトラハシス叙事詩をお薦めします。

上記の二つの記事にもその名が見られる”エンキ”という神様は
シュメール時代から名の見える水と知恵、魔術の神であり、創世の神、
また深淵の主なのですが、この深淵とは冥界の意を含んでいます。
紀元前2000年以前の初期の王家の碑文には、
”エンキの葦(あし)”という表記が見られるという事なのですが
当時の都市の死者搬送用の門の外から
建材や道具類の材料として”葦(あし)”を採ってきたような記述があるようです。
”葦(あし)”は湿地帯に繁茂する植物ですから
この死者搬送の門は水門だったのかもしれません。

エジプト神話における”葦(あし)”の冥界との繋がりは
この辺りから影響を受けているのかも知れませんね。

さて、”葦(あし)”という植物の用途の一つに
楽器の材料/部品というものがあります。
クラリネットサックス(サクソフォーン)に欠かせない
”リード(Reed)”と呼ばれる音を出すためのパーツの名前は
英語で”葦(あし)”の事です。
現在も天然葦製の”リード”が使われていますが、
実際には”葦(あし)”ではなく、葦竹(あしたけ/よしたけ)と言う
竹の一種が主流のようです。

”葦笛(あしぶえ/あしふえ)”と言う楽器は、
”エアリード”式と呼ばれて、
前出した”リード”というパーツを使わない縦笛(たてぶえ)です。
笛としては最も古いモノの一つで、
茎が中空である”葦(あし)”の特性をそのまま利用した楽器です。
現在、多くの”葦笛(あしぶえ/あしふえ)”の総称として
最も有名な”パンパイプ”または”パンフルート”の名前は
ギリシャ神話の牧羊神”パン”に由来します。
その”パン”が作った縦笛の名を”シュリンクス”と言います。
”シュリンクス”は、”パンパイプ”または”パンフルート”の大元の名前なんですが
現在日本でこの名前を知る人は少ないでしょうね。

”シュリンクス””ニンフ”の名前です。
”ニンフ”とは、ギリシャ神話における
女性の妖精族/精霊族と思って良いでしょう。
ニンフである”シュリンクス”は、
狩猟神であり月の女神”アルテミス”の信奉者でした。
”アルテミス”は処女神としても知られていて
”男を寄せ付けない事では天下一品”の有名な女神です。
(実際には恋物語もあるのですが、添い遂げる事はできませんでした)
まぁ、その”アルテミス”の信奉者ですから、
”シュリンクス”も多くの男神になど目もくれません。
ところが、ある時、この”シュリンクス”を見た”パン”
どうしても我がモノにしたくなって
狩りの帰りの彼女に声をかけるのですが
彼女は相手をせずさっさと去ってしまいます。
諦めきれない”パン””シュリンクス”を追いかけました。
必死に逃げる”シュリンクス”は、途中で友達の水のニンフに出会います。
水のニンフは追いつこうとしている”パン”の姿を見て
咄嗟に”シュリンクス”を水辺の葦原(あしはら)に隠します。
”パン”は構わず葦原(あしはら)に入り、
”シュリンクス”を抱きしめたと思ったのですが
それは、ただの”葦束(あしたば)”だったのです。
茫然自失の体で葦を抱きしめていた時
風が吹き、葦から美しい音色が響きました。
音楽好きの”パン”はこの音に魅了され
自ら長さを切りそろえて、束とした笛を作り、
この笛に”シュリンクス”という名を付けたと言います。

ここでは、”シュリンクス”は逃げおおせただけで
死んだわけではありませんが、
葦原(あしはら)に隠れるという事により
水のニンフ界へ行ったとも考えられます。
異界への入り口としての要素は残っているように思います。

つれづれに書いて来てしまいましたが大分長くなりました。

アフリカ神話では、始祖が現れた場所
古代オリエントでは、死の入り口
ギリシャ神話では異界への入り口
日本神話では国土そのもので、世界の始まりの地


パスカル「人は考える葦」と言います。
”葦(あし)”は最弱のものであると言うことを踏まえての言葉と
いう事も言われますが、
”葦(あし)”は決して弱くはありません。
”葦(あし)”は湿地に根を張り、
強風にも折れることは滅多にないのです。
キリスト教で人を”葦(あし)”にたとえるのは
したたかな民衆を言っているような気がします。
風に逆らわず、しなやかに揺れ、
住居や道具、そして誕生の時にも、死の時にも、
人を助け、利用されてきた”葦(あし)”

この植物は、死と再生、生命の象徴です

今の日本では大きな葦原は姿を消そうとしています。
国土の象徴である葦原がなくなるようなことがあったなら
我々も生けていけなくなるのかもしれません。
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テーマ:神話 - ジャンル:学問・文化・芸術

2008-01-20 17:05:41

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コメント

これこれ。。。(爆)

かしりょうさん、こんばんは。
それにLyricaさんまで。。。(爆)

でも、なんですか。私のコメントに突っ込み入れろだなんて、
妙なこと勧めないで下さいよ~(爆)

ということで、Lyricaさん、ここだけは本気にされなくても宜しいので。。。(笑)

お勉強だなんて(苦笑)

Lyricaさん、いらっしゃいませ!(笑)

こっそり覗かれていたとは・・・・
お恥ずかしい(苦笑)

こんなので勉強になりますか?
精確さには欠けますし、
妄想と虚構が主題ですからねぇ(爆)

今回、引用先として使用させていただきましたが
Lyricaさんの所も一部神話ですよね?
宜しければリンクさせてください。

また、遊びに来てください。
やわたうまさんのコメントにつっこみ入れるだけでもいいですから(爆)

ありがとうございます。

先ほどはわざわざありがとうございました^^
私も神話は大好きなので、こちらのブログ、たまにこっそり
覗かせていただいておりました。
とてもお勉強になります^^

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神話・古代史に思いを馳せる。
と言うと格好良いですが、実際は、
”空想にはお金がかからない”
という事で。。。
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